予言書を手に入れた悪役令嬢は役を降りることにしました。
「ぅ、ふ。……ひぅっ」

それでもこれまで何度浮気を繰り返されてもミリアはこれほどにショックを受けたことはなかった。

こんなにも涙が止まらなくなることはなかった。 

それはやはりどこか諦めていたからかも知れないし、たとえ浮気されていたとしても婚約者は自分であるという自負があったからかも知れない。

だとしたらやはり、こんなにもショックなのは相手がラーナだからだろうか?
幼なじみであり、親友であったはずのラーナだから、こんなに苦しいのか。

「ひぐっ。友達のはずなのに。……親友だって、思ってたのに」

ずるる、と鼻水を啜って、ボフン!とまた尻の下を叩いた時だった。


「いい加減煩いっ。それに人のことを叩き過ぎよ。小娘」

突然聞こえた声にミリアはピタリと振り上げた手を止めた。
女性のものらしき耳に心地よい声音の声だった。
美声と言って良い。落ち着いた柔らかな響きは、歌でも歌ってみればさぞ素晴らしく美しく響き渡るものと思える。

それが、聞こえた。
しかも、気のせいでなければ尻の下から。


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