花時の贈り物
淡く色づいた桜が散り、緑が深まる頃。高校最後の体育祭は晴天に恵まれた。
赤や黄色、緑など各々のクラスカラーを主張するハチマキを身につけた生徒たちが横切っていく。楽しそうな声が響き渡る昇降口を抜けて校庭に出たときだった。
「あのさ」
喧騒の中、澄んだ声が耳に届く。
声の主が誰なのか察しがつき、顔が強張る。おずおずと振り返れば神妙な面持ちの彼がいた。
体育祭前日にギリギリ仕上げた赤色のハチマキをぎゅっと握りしめて、逃げ出したい気持ちを必死に堪える。
「体育祭が終わったら……話があるんだけど」
弱々しく頷くと、彼は少し気まずそうに視線を逸らして生徒たちが集まる方へと足を進めていく。
その背中を私は見送ることしかできなかった。
この日、彼は私になんて言おうとしていたのだろう。
聞けないまま時が過ぎ、季節は春を連れてきた。
< 1 / 26 >