花時の贈り物



「なつかしー。俺らのクラス優勝だったよな! 采花がリレーで大活躍してさー」

机の上に並べられた体育祭の写真に視線を落とすと、ピースサインをしてクラスメイトと映っている私を発見した。苦々しい思い出に胸が苦しくなる。

采花とも瀬川くんとも写真を撮ることはなかった。あの頃の私たちはいつも一緒にいたのに体育祭の日だけは、一緒に笑いあうことはなくていい思い出はない。


「あ、でも……」

麻野くんの表情が次第に曇り、気まずそうに口元を引きつらせた。

きっと彼もあることを思い出してしまったのだろう。

采花と瀬川くんを交互に見て、しまったという顔で口を噤んでしまった。



「ちょっと飲み物買ってくるね」

この重たい空気が流れる場には不釣合いなくらい明るい声だった。

采花が立ち上がると、一緒に作業していた未来ちゃんも立ち上がり後追うように教室から出て行く。

瀬川くんのことも気になったけれど、采花のことが放っておけなくて私も追いかけることにした。


階段を下っていくふたりの後ろ姿を見つけて、小走りで駆け寄る。「大丈夫?」と未来ちゃんに声をかけられた采花はぎこちなく微笑んだ。


采花は嘘が下手だ。隠そうとしても、顔に出てしまっている。



「ちょっと気分転換したいなって思っただけだよ。心配かけてごめんね」

未来ちゃんも私も采花が動揺してあの場から抜け出したのはわかっていた。

ずっと蓋をしてきた過去。

蓋を開けて、向き合って手放さなければいけないときが近づいてきている。


それでも開かないようにとかたく締めていた蓋を開けるのは容易ではない。

思い出したくない出来事。他の誰かに触れられたくないトラウマ。楽しかった思い出さえも、曇っていく。


私はあの日々を、綺麗なものだけ集めて飾り付けたいわけじゃない。後悔も焦がれた醜さも、すべて含めて大事な日々だったと思いたい。



「あの頃さ、采花と瀬川って付き合ってるのかと思ってた」

自動販売機の前に着くと、未来ちゃんはポケットから取り出した百円玉を弄びながらラインナップを吟味していた。

その横で采花は訝しげに眉を寄せて、口をへの字に曲げる。


「私と瀬川が?」
「仲良かったじゃん。幼なじみだっけ」
「違うよ。中学から一緒なだけだし、ただの腐れ縁」

采花と瀬川くんは中学からの同級生だ。高一で私が采花と仲良くなって、高二のときに三人で同じクラスになってから一緒にいるようになった。

今では三人で過ごした日々は遠い思い出のように感じる。


明るくて周りの人たちを楽しませるのが得意な采花と、好奇心旺盛で話し上手な瀬川くん。そんなふたりの間には口下手で要領の悪い私がいた。


昼休みは基本的に室内にいた私をふたりは外へとよく連れ出した。

借りてきたバスケットボールでシュートやドリブルの練習をしているだけなのに、何故か笑いが絶えなくて、外で遊ぶ楽しさを教えてくれたんだ。



いつだってふたりは私の腕を引いて、明るい方へと引っ張ってくれた。


でも————もう三人でいることはなくなった。





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