花時の贈り物
そして高校二年生になり、采花とまた同じクラスになった私は中学から一緒だという瀬川くんと知り合った。
「瀬川とは中学三年間同じクラスだったんだけど、また高校で同じクラスになるなんてねー」
「本当腐れ縁だよな」
瀬川くんも采花と同じように明るくてクラスの中で目立つ存在だった。
中学の頃は陸上部だったらしく、少し焼けた肌に切れ長の目。爽やかな雰囲気を纏った男の子だった。
初めての男友達という存在に戸惑ったけれど、瀬川くんは気さくに話しかけてくれた。そのおかげで少しずつ緊張がほぐれていった。
私と采花と瀬川くんは、得意なことも好きなものも違うけれど、不思議と一緒にいると居心地がよくて気がついたら三人でいることが当たり前になっていたのだ。
「悠理―! ここの問題教えて!」
「俺が先だっつーの。割り込むなよなぁ」
「私の方がプリント終わってないんだから譲ってよ!」
口喧嘩をするふたりを宥めながら、数学を教えていく。勉強は平均点よりも少し上くらいだけれど、ふたりの力になれるのが嬉しくて、私自身も勉強を頑張るようになった。
「悠理の字って、綺麗だよなー。見やすい」
「瀬川の字は暗号みたいに下手だよね」
「お前も上手くはないだろ!」
褒められたことが照れくさくて、でも少しだけ誇らしくて自然と笑顔になる。特に意識していなかったけれど、見やすい字でよかった。
「はぁ、悠理の笑顔癒されるわー。瀬川なんて癒しゼロだし」
「悠理、こいつやる気ないから俺を優先して教えて」
「やる気あるし!」
采花が瀬川くんの頭を下敷きで軽く叩くと、瀬川くんが采花の髪を下敷きでこすって静電気を起こさせる。
「采花も瀬川くんも、ストップ! 時間なくなっちゃうよ!」
子どもみたいなやり取りを繰り返すふたりは、場の空気をいつだって明るくて楽しいものにしてくれた。
大好きな時間。大好きな人たち。
それはふとしたときに消えてしまうくらい繊細で、かけがえのないものだったのだ。