羽のように舞い上がって
中学生の頃は、俺がいたクラスではほとんどが恋愛好きだったから、彼女を落とすのは思っていたよりも難しそうだ。
自信があった訳ではないが、恋愛に興味がない女子高生がいたとは思いもしなかった。
「でも、なんであいつばかり狙ってんの?」
不意に井上が聞いてきたので、
「……な、なんか面白そうだし?」
と、俺は言った。
「面白そう?」
共感できないという風に、井上は眉をひそめた。
「なんか、あいつ、天然なところあるから、馬鹿にしやすいし」
「ふーん」
おかしい。なんで、こんなにも動機が止まらないんだろう。
本当にちょっとした遊びのつもりだったのに、こんなに顔が熱くなるのか、自分でも分からない。
「お前、大丈夫か? 顔が赤いぞ。熱でもあんじゃねえの?」
「いや、そんなことないと思うけど……」
俺は、なんとか彼女のことを考えないようにしようと、心の中で深呼吸をした。
「あ、そういえば、次の授業なんだっけ?」
この話をやめようと、俺は話をずらす。
「次? 社会」
何事も無かったように答える井上。
「ああ、そっか。サンキュ」
俺が社会の教科書を机の上に出した後は、井上は何も話しかけてこなかった。