彼の愛した女(ひと)は?
病院の中にある小さな庭。
柊が歩いて来た。
「ちょっと、待って」
追いかけてきた静流がやってきた。
「待ってって」
柊の肩を掴んで静流は呼び止めた。
「ごめん、さっきの誤解しただろ? 」
「誤解って、何の事ですか? 」
「さっきの見たんだろう? あの人は、うちの事務で働いている人だ。一人で子供を育てていて、その子供さんが俺に会いたいらしくて。その話をしていただけだ」
「はい・・・」
どこか納得していない柊。
「俺の事、信じられないのか? 」
「いいえ、そうではありません。だって、貴方のような素敵な人に女性の一人や二人いても不思議ではないと思うから」
「じゃあ、どうして逃げたんだ? 」
「逃げたわけじゃなくて、邪魔をしてはいけないと思って」
「そうか。それならいいけど、せっかく付き合えることになったのに。誤解されたら、嫌だったから」
そう言って、静流はそっと柊の手を掴んだ。
「もう仕事は終わったんだろう? 」
「はい」
「それじゃあ、ご飯でも食べに行こう。美味しいイタリアンの店があるんだ」
柊の手を掴んだまま、静流は歩き出した。
柊は複雑だった。
とても親し気に話すミル。
笑顔も素敵だった。
そんな女性が傍にいるのに、どうして私なんかと付き合いたいのか。
複雑な気持ちのまま、柊は静流に連れられてイタリアンの店にやって来た。
商店街通りから少し離れた場所にある、オシャレなイタリアンの店。
広々としてラフに食事ができる。
静流のおススメで注文してもらって、どんどん料理が出てきた。
どれも美味しくて、いつも暗い顔をしている柊の表情も少し喜ばしい表情になっていた。
アルコールはたしなむ程度しか飲めないと柊が言った。
シャンパンのアルコールが弱い物を注文して軽く飲む2人。
最後に美味しいオレンジ系のシフォンケーキが出てきた。
シフォンケーキを食べると、思わず柊の笑みがこぼれた。
その顔を見ると静流は嬉しくなった。
食事が終わって店を出て、静流と柊は歩いていた。