彼の愛した女(ひと)は?

 そんな静流と柊を遠目で見ていた者がいた。


 先日、病院の前に現れたミルだった。

 今日は娘を連れて水族館にきていたらしい。


 静流と柊に気付いたミルは、どこか嫉妬した目で2人を見ていた。




 アザラシのショーを見終えて、ゆっくりと歩きながら他の魚を見ている静流と柊はさりげなく手を繋いでいた。


 2人に気付かれないように、ミルは後をつけて見ていた。


 暗い顔している柊を見ていると、どこかで見覚えがある事を思いだした。


「あの人、どっかで見たわ。どこだったかな? 」

 近いような遠いような記憶。


 記憶をたどって行くと・・・

「あ! 思いだした! 」


 ミルは7年前の記憶にたどり着いた。

 それはミルの母親が亡くなった時だった。


 ミルの母親は心臓が悪く移植をすすめられていた。

 ミルは必死に働いてお金を貯めて、募金も募って母を助けようとしていた。


 母が入院して半年過ぎた頃。

 脳死をした人が現れ心臓移植のチャンスが巡ってきた。


 大喜びしたミルと母だったが、その人の心臓は適合しないと言われて移植はできなかった。

 代わりに同じ病院に入院していた別の患者に移植が行われたと、人伝えに聞いたミル。

 適合しなかった事は仕方がなかった。

 それで諦めるしかなかった。

 だが、ミルの中では悔しさが込みあがって、待っていた母の心臓を奪われたと思い込んでいしまった。


 移植のチャンスを逃してから三ヶ月後にミルの母親は他界した。

 
 悲しみにうち塞がれるミル。

 だが、亡くなった母とは反対に移植を受けた患者は元気になり退院していった。


 その時、悔しさと悲しみに押し潰されそうになっていたミルは、その退院した患者に怒りを向けた。

 そうしないと生きてゆけなかったのだ。
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