彼の愛した女(ひと)は?
その時退院した患者は、遠目で見ている柊だった。
眼鏡はしていなくて髪も今より長くて、暗い感じではなかったが。
間違いなかった。
その後、その患者が医者になったと風の便りで聞いたミル。
7年経過してもその時の怒りが消えないままでミルはいた。
11年前に結婚したミルだが、相手を愛することが出来ず離婚して子供を引き取り育てている。
だがいつも、母に提供するはずだった心臓を奪ったその患者の事を思い出して怒りを向けている。
その怒りを生きるエネルギーにミルはしていた。
「あの時の・・・あいつね・・・」
柊を見ると、ミルは怒りが込みあがってきた。
母を殺したと思い込むほど怒りは沸いてきて。
想いを寄せている静流と特別な関係である事にも怒りが湧いてきた。
「許せない・・・。絶対に許せない・・・」
怒りと嫉妬を込みあがらせた目を向けて、ミルは子供を連れてその場を去って行った。
そんな事を知らないまま、静流と柊はデートの時間を楽しんでいた。
黒影が近づいている事なんて予測もしないまま・・・。