彼の愛した女(ひと)は?
それから一週間後。
ミルはいつもと変わらない様子で、静流の事務所で仕事をしていた。
ミルが来るのは週に3回。
朝の10時~お昼の14時までの短い時間。
簡単な事務を任されている。
ミルの他には年配の50代になる女性、松本順子(まつもとじゅんこ)がいる。
順子は、静流の父と母の事も良く知っている。
昔からの付き合いのある女性で、他の法律事務所で勤務していたが静流が事務所を立ち上げた事から転職してきてくれた人。
気のいい世話焼きのおばさんタイプ。
ふっくらしていて行動力もあるが、ここ数年は体調が思わしくない時も多く病院通いが多くなったようだ。
今日も順子は病院に行ってから出勤してきた。
「もう嫌になるわね。年を取ると、あちこち悪くなってさぁ。病院では待たされるし、でも今日はとっても親切な先生で気分良かったわ」
ニコニコと話している順子。
「今日は初めて女の先生だったんだけどね、とっても優しい先生でビックリしたよ。最近、心臓の調子が良くなくて相談したら親身になってくれてね。その先生も、数年前に心臓移植してもらったって話してくれたんだよ」
え? と、ミルは順子を見た。
「なんか嬉しいっていうか。同じ心臓を患った事がある先生だっと思うと、安心できてねぇ」
「そうなんだ。その先生、どんな人? 」
ミルが順子に尋ねた。
「ああ、光友総合病院の東條先生。まだ若い先生だけど、しっかりしていて患者さんにも好評の先生だよ」
「東條? 東條なんていうの? 」
「ん? 下の名前? 確か名札に・・・そうそう、柊って書いてあったよ」
「柊・・・」
(柊、良かったな元気になって)
7年前、ミルが悲しみいっぱいな時、移植を受けて元気に退院した人の傍にいた父親らしき男性。
彫りの深い顔立ちに、ビシッとスーツを着てどこかの社長のような貫禄のある当時50代くらいの紳士。
その紳士が確か・・・柊と呼んでいたのをミルは思いだした。