彼の愛した女(ひと)は?
考えていても答えなんて出ない。
だが静流の気持ちは変わる事がなかった。
それどころか思いは膨らむばかりで、柊の事をもっと好きになってゆく自分が判った。
だがあの時。
零のお墓に行った時。
玲子が、柊を見て前に零のお墓に来てくれたと言ったが。
柊は人違いだと否定した。
しかし。
柊がもし、零から心臓をもらったことを知っているなら、零のお墓に行っていても不思議ではない。
前に零のお墓に行った時、零が好きなバラの花が綺麗に供えてあった。
その花を見た時に静流は、なんて丁寧で大切に供えてあるのだろうと心を打たれた。
玲子が供えたわけでもないようだった。
もしその花を柊が備えてくれていたなら。
悪意なんて全くない。
寧ろ罪悪感を強く感じている柊が居るだけだ。
夜になり一人部屋で静流は携帯電話を見つめた。
柊に電話をしようか迷っていた。
確かめたい気持ちと、柊が自分から打ち明けてくれるのを待っていたい気持ちが交互していた。
柊と交際を始めて間もなく一ヶ月が過ぎようとしている。
デートできる時間は少なくても、少しでも電話で話せたりメールが来るだけでも静流は幸せを感じていた。
(想いは口に出して届けてくれないと、判らないよ。だって好きな人の言葉には、とっても強いエネルギーがあるもの)
零がよく言っていた。
文字より言葉で伝えてほしいと。
静流は一息ついて電話をかけた。
相手は・・・
「あ、もしもし? 柊? 今大丈夫? 」
そう柊だった。