彼の愛した女(ひと)は?

「先生。東条先生って、とっても優しくて。私大好きなんですよね。この前、病院に診察に行って、東條先生いるかな? って思ったけどいなくてね。でも帰りに、とんでもないところを見てしまったんだけど・・・」

「とんでもないとこ? 」

「実は。ミルさんが、東條先生を脅していたんだよ」

「脅していたって、どうゆう事? 」


 順子はミルと柊が話していて、ミルが携帯に無理やり静流には近づかいないとメールを送らせていた事を話した。

 そして今度近づいたら、静流の恋人の心臓を無理やりお金で奪った事を話すと脅していた事も話した。


「それって、いつの話しなんだ? 」

「そうね、2週間前くらいだったわ。東条先生、朝帰りしていたんだと思うよ」


 2週間前。

 柊と連絡が取れなくなった時期と一致している。


 そうか、柊が電話にも出ない、メールも返事をしてこないのはそれがあったからなのか。


 静流は納得した。

 ミルはここの所ずっと機嫌が良くて、静流にすり寄るように近づいてくる。


 以前、水族館で柊と一緒だったところを見たミルは柊が無理やり零の心臓をお金で奪ったと怒りを抱いていた。


 それでもし、仲を引き裂こうとしてやった事なら話は分かる。


 柊はショックを受けているに違いない。

 見かけよりずっと繊細な柊。


 同じ事務所で働いているミルがまた何かを言い出せば、きっと、困るのではないかと思っているに違いない。


 ミルは母親の命を奪われた事に怒りを向けて、柊を逆恨みしているようだ。

 そして元夫もお金持ちでミルを裏切ったと思っている。

 怒りの矛先が柊に向いていしまったのだ。
< 26 / 52 >

この作品をシェア

pagetop