彼の愛した女(ひと)は?
「先生。もしかして、先生の恋人って7年前脳死した人? 」
「ああ、そうだけど」
「そうだんだ。でも、心臓って簡単に移植はできないでしょう? 」
「そうだよ」
「ミルさんはお金で無理やりって、言っていたけど。それは違うと思うけどね。いくらお金を積んでも、絶対に適合するって決まっていないし。もし、何らかの形で競う人が居て、どちらかが優先されなかったとしても。それは適合するかしないか、それだけの事であって。お金の力じゃないって私は思うよ。東城先生、すごく患者思いの人だよ。きっと、心臓移植してもらって、命が助かった事に感謝しているんだと思うけどね。とっても優しい目をしているよ。でも、どっか悲しそうな感じがしたね」
「順子さんありがとう話してくれて」
「ずっと話したかったけど、ミルさんがいるし。余計な口出しって、あれかな? って思ったんだけどね。先生が思い詰めているようだから、よっぽど大切な人なんだって、思ったから話したんだよ」
「うん」
「先生が東條先生を好きになる気持ち、私には判るよ。とっても素敵な人だから、惹かれるんだよね」
確かにそうだろう。
でも惹かれたのはそれだけの理由じゃないと静流は思った。
もしかしたら、亡くなった零が引き合わせてくれたのかもしれない。
柊の中で零の心臓が生き続けている。
だから命を受け継いでくれた柊を幸せにしてほしいと、零が願ってくれているのかもしれない。
話を聞いてしばらくして。
静流はお昼をとりながら柊にメールを送った。
(もう何も心配しなくていいよ。全部聞いたから)
それだけ送った静流。
柊から返事は来なかったが、それでも静流は何も心配しなくなった。
なんとなく気持ちは伝わっているような気がしたのだ。