彼の愛した女(ひと)は?

「解ります。柊さん、とっても優しい人ですから」

「ええ。でもそんな柊が初めて、私に頼ってくれましてね。この半年間、ある療養施設に援助しているんです。そこには、大切な人の大切な人が居るからって言っていました。新しいパジャマを送ってほしいとか。楽しい生活ができるように、お出かけできるように支援してほしいと言ってましてね。療養施設の管理者も大喜びしています」


 静流はふと、母のいる療養施設を思いだした。

 最近は裕福になったと言っていた。

 母は古いパジャマをずっと来ていたのに、新しいパジャマを有難うと言っていた。

 時々外出にも連れて行ってもらえると喜んでいた。


 まさか・・・柊が? 

 静流の胸がキュンとなった。


「柊は、ずっと養女だからって我慢ばかりしていましたが。こんな事を頼んできたのは初めてで嬉しかったのです。でも、貴方のような立派な方が柊と一緒になってくれたら。私もとても安心です。とっても優しくて、とってもかわいい子なんです、柊は」


「ええ、良く分ります。本当は、柊さんと一緒にご挨拶に来るべきだったのですが。すみません、出しゃばった事をしてしまって」

「いいえ。私も貴方と会えて嬉しいです。柊の事、よろしくお願いしますね」


 大企業の社長なのに、護は気さくでとても優しい。

 穏やかな護に育てられて、柊も穏やかに育ってきたに違いない。






 護の下を後にして、静流は久しぶりに父清流のお墓にやって来た。

 シンプルな石造のお墓。

 
 九条家と書いてあるお墓にやって来た静流。


 するとお墓に綺麗なカスミソウが供えてあった。

 お線香もついていて、誰かが来てくれたばかりなのが判った。


 綺麗なカスミソウを見ていると、零のお墓に供えてあったバラの花と重なった。


< 29 / 52 >

この作品をシェア

pagetop