彼の愛した女(ひと)は?
「解ります。柊さん、とっても優しい人ですから」
「ええ。でもそんな柊が初めて、私に頼ってくれましてね。この半年間、ある療養施設に援助しているんです。そこには、大切な人の大切な人が居るからって言っていました。新しいパジャマを送ってほしいとか。楽しい生活ができるように、お出かけできるように支援してほしいと言ってましてね。療養施設の管理者も大喜びしています」
静流はふと、母のいる療養施設を思いだした。
最近は裕福になったと言っていた。
母は古いパジャマをずっと来ていたのに、新しいパジャマを有難うと言っていた。
時々外出にも連れて行ってもらえると喜んでいた。
まさか・・・柊が?
静流の胸がキュンとなった。
「柊は、ずっと養女だからって我慢ばかりしていましたが。こんな事を頼んできたのは初めてで嬉しかったのです。でも、貴方のような立派な方が柊と一緒になってくれたら。私もとても安心です。とっても優しくて、とってもかわいい子なんです、柊は」
「ええ、良く分ります。本当は、柊さんと一緒にご挨拶に来るべきだったのですが。すみません、出しゃばった事をしてしまって」
「いいえ。私も貴方と会えて嬉しいです。柊の事、よろしくお願いしますね」
大企業の社長なのに、護は気さくでとても優しい。
穏やかな護に育てられて、柊も穏やかに育ってきたに違いない。
護の下を後にして、静流は久しぶりに父清流のお墓にやって来た。
シンプルな石造のお墓。
九条家と書いてあるお墓にやって来た静流。
するとお墓に綺麗なカスミソウが供えてあった。
お線香もついていて、誰かが来てくれたばかりなのが判った。
綺麗なカスミソウを見ていると、零のお墓に供えてあったバラの花と重なった。