彼の愛した女(ひと)は?
信号が青になったのを見て、女性はどこか逃げるように静流の前から走り去った。
「あっ・・」
逃げるように去ってゆく女性を見つめている静流。
「ん? 」
ふと、足元を見ると何か落ちている。
それを拾うと静流は驚いた。
拾ったものは病院の医師がつけている名札だった。
顔写真もついている名札で
名前は東條柊(とうじょう・ひいらぎ)とかいてあり、走り去った女性の写真が貼ってある。
眼鏡をかけてどこか悲しそうな目をしている女性。
走り去った女性の姿はもう見えなかった。
翌日。
静流は仕事の合間を見て、女性が落とした名札を病院に届けに来た。
光友総合病院(こうゆう・そうごうびょういん)。
外科病棟のナースステーションに静流はやって来た。
「すみません。落とし物を届けに来たのですが」
ステーションにいた看護師達は、静流を見るとポーッとなってしまった。
「こちらに東条先生は、いらっしゃいますか? 」
「は、はい。東条先生でしたら、今休憩中で屋上にいらっしゃいますよ」
看護師は静流に見惚れながら答えた。
「有難う」
屋上。
昨日の女性が策にもたれて、空を見上げている。
そっと左胸を押さえている女性は、どこか悲しそうな目をしている。
キーッ。
屋上のドアが開く音がして女性は振り向いた。
「東條柊さんですね? 」
やって来た静流が歩み寄ってくると、女性は息を呑んだ。
「これ、昨日落としていましたよ。困っているんじゃないかと思って、届けに来ました」
名札を差し出す静流。
女性こと柊は名札を見るとハッとなり、そっと頭を下げた。
「・・・わざわざ、申し訳ございません・・・」
「いいえ」
名札を受け取ると、柊はポケットに閉まった。
「お医者さんだったんですね、しかも外科医だなんてすごいですね」
「そんなこと・・・」
そっと顔をそむけると、柊はその場を去って行こうとした。
「待って」
腕を掴まれて、引き止められる柊。