彼の愛した女(ひと)は?
「もしかして・・・」
ハッとなり、清流は急ぎ足で辺りを探した。
もしかして・・・柊が来てくれたのではないかと、直感的に感じたのだ。
花には生けてくれた人の気持ちが現れると零が言っていた。
零のお墓に供えてあったバラの花も、清流のお墓に供えてあったカスミソウも、とても丁寧で優しい感じがした。
間違いない・・・きっと柊が供えてくれたんだ。
そう思って静流は走って来た。
お墓の出口を出て暫く行くとバス停がある。
そこに黒いハイヤーが止まっている。
静流がハイヤーに気付くと動き出した。
「待って! 」
走り行くハイヤーを静流は追いかけた。
全速力で追いかけて・・・
ハイヤーを見失ってしまうかと静流が思った時。
ハイヤーは止まった。
息を切らせて静流は立ち止まった。
後部座席のドアが開いて降りてきたのは・・・
柊だった。
白いブラウスに黒いスラックス、そして黒い靴。
いつもかけている眼鏡をかけていない柊。
その姿を見ると、静流は嬉しさが込みあがって。
同時に愛しさが込みあがってきた。
柊はしばらく静流を見つめていた。
ハイヤーは先に走って行った。
「柊・・・」
潤んだ目をして、静流は柊に歩み寄ってきた。
柊は視線を落として、その場に佇んでいた。
柊の傍に来ると、静流は眼鏡を外した柊がとても可愛くて見惚れてしまった。
「やっと・・・会えたな。・・・もう、何年も会っていないくらい長かった」
「・・・ごめんなさい・・・」
小さな声で柊は謝った。
「誰に謝っているんだ? 俺に謝っているのか? それとも・・・零に謝っているのか? 」
え? と、柊は驚いて静流を見た。