彼の愛した女(ひと)は?
 
「もしかして・・・」

 ハッとなり、清流は急ぎ足で辺りを探した。


 もしかして・・・柊が来てくれたのではないかと、直感的に感じたのだ。

 花には生けてくれた人の気持ちが現れると零が言っていた。


 零のお墓に供えてあったバラの花も、清流のお墓に供えてあったカスミソウも、とても丁寧で優しい感じがした。


 間違いない・・・きっと柊が供えてくれたんだ。



 そう思って静流は走って来た。


 お墓の出口を出て暫く行くとバス停がある。


 そこに黒いハイヤーが止まっている。


 静流がハイヤーに気付くと動き出した。


「待って! 」


 走り行くハイヤーを静流は追いかけた。


 全速力で追いかけて・・・

 ハイヤーを見失ってしまうかと静流が思った時。


 ハイヤーは止まった。


 息を切らせて静流は立ち止まった。


 後部座席のドアが開いて降りてきたのは・・・


 柊だった。


 白いブラウスに黒いスラックス、そして黒い靴。

 いつもかけている眼鏡をかけていない柊。


 その姿を見ると、静流は嬉しさが込みあがって。

 同時に愛しさが込みあがってきた。


 柊はしばらく静流を見つめていた。


 ハイヤーは先に走って行った。


「柊・・・」

 潤んだ目をして、静流は柊に歩み寄ってきた。


 柊は視線を落として、その場に佇んでいた。



 柊の傍に来ると、静流は眼鏡を外した柊がとても可愛くて見惚れてしまった。

「やっと・・・会えたな。・・・もう、何年も会っていないくらい長かった」

「・・・ごめんなさい・・・」

 小さな声で柊は謝った。

「誰に謝っているんだ? 俺に謝っているのか? それとも・・・零に謝っているのか? 」

 え? と、柊は驚いて静流を見た。


 
< 30 / 52 >

この作品をシェア

pagetop