彼の愛した女(ひと)は?
6章
それから静流と柊はバスに乗って帰って行った。
バスの中で、柊はずっと零のお墓にバラの花を供えていた事を話してくれた。
そして静流と三ヶ月でも交際がきまってから、静流の父清流のお墓にもカスミソウを備えていた事も。
静流は感謝の気持ちでいっぱいで何も言う事はなかった。
気持ちが通じ合えて、柊は素直に笑ってくれる。
そしてミルに送ってしまったメールの事を話して、謝ってくれた。
静流はそんなメールは気にしないと言って許してくれた。
街に戻ってくる頃には、もう日が沈んで夜になっていた。
静流は柊の家まで送っていくと言い出した。
断ろうとした柊に
「もう、お父さんには会って来たんだ」
と言った。
驚く柊だったが、全てを知られたことでどこかホッとしていた。
柊の家は街はずれのタワーマンションに住んでいた。
高級マンションで、お金持ちしか住めないタワーマンションの最上階に住んでいる柊。
玄関まで送ると言った静流。
最上階に来ると景色が違う。
鍵はカードキーで、カードをかざすと玄関が開くようになっている。
柊がカードキーで玄関を開けようとした時。
カチャッと玄関が開いた。
「お帰り柊」
護が出てきた。
「お父さん、今日は早かったの? 」
「ああ、何となく早く仕事を切り上げて来たんだ。ちょうど良かった、静流君、上がって行ってくれよ」
「あ、いえまた改めて伺います。今日はもう遅いですし、久しぶりに早く帰ったなら。親子でゆっくりして下さい」
「気を使わなくていいんだよ。何となくだが、今日は君が来るような気がしたんだ。これからは、なるべく早く帰るようにして柊との時間を作るから。遠慮なく上がってくれ」
静流は柊を見た。
柊はそっと微笑んだ。