彼の愛した女(ひと)は?
「あの、どこかで会った事ありませんか? 」

「い、いいえ・・・」

「前にすれ違った事があったのですが、その時からずっと気になっているんです」

「・・・会った事なんて、ありません・・・」


 どこか悲し気に俯く柊を、静流はじっと見つめた。


「すみません、手を離してもらえますか? そろそろ、戻らないといけないので」

「あ・・・」


 静流は少し名残惜しそうに手を離した。


「届けて頂いて、有難うございました」

「お礼はいいので、一度でいいですから。会ってもらえませんか? 」

「はぁ? 」

「お休みはいつですか? 」


 柊は驚いた目をして背を向けた。


「外科医の先生は忙しい事は知っています。少しでいいので、時間を作ってもらえませんか? 」

「どうしてですか? 私なんか・・・」

「好きになってしまったんです。貴女の事が」

「はぁ? 」

 
 背を向けたまま、柊は信じられない顔をした。


「ただ通り過ぎただけでしたが、ずっと忘れられませんでした。昨日また会えて、確信したんです。貴女に、恋してしまったと」

「じ、冗談はやめて下さい」

「いえ、本気です。ダメですか? 俺では」


 柊はそっと胸を押さえた。


「ダメです! 絶対絶対にダメです! 」

 
 柊はそのまま走り去った。


「あ、待って! 」


 


 走って階段を下りてきた柊は、近くの空き部屋に隠れた。



 追いかけてきた静流は、隠れた柊に気付かず行ってしまった。


 静流が居なくなったのを確認すると、柊は出てきた。


 少し青い顔をしている柊は、そっと胸を押さえた。

「どうして? 」

 そう呟く柊はとても辛そうな目をしていた。




 柊を見失った静流は、そのまま帰ることにした。

 
 名札を拾っただけの人に、突然告白された柊は暫く驚いて頭が混乱していた。


 


 数日後。

 今日は金曜日。

 病院には曜日は関係ないが、柊は久しぶりに早く帰ることができ18時には病院を出てきた。

 
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