彼の愛した女(ひと)は?

「なんなの? あんた。先生には二度と近寄らないって、私に約束したじゃない! ちゃんとメール残しているわよね? 」


 詰め寄られ柊は息を呑んだ。


「おい、何しているんだ! 」


 静流が柊の傍に来て、庇うように抱き寄せると、ミルは怒りを露わにした。


「どうゆうつもり? あんた、先生にまだ隠しているの? 」


 柊はそっと視線を落とした。


「零の事なら、もうとっくに聞いているぞ」

「え? それで、また先生に近づいているの? 」

「そうじゃない、俺が追いかけたんだ」

「はぁ? 嘘でしょう? 」

「本当だ。連絡が途絶えてずっと、俺は柊が心配だったんだ。何も話してくれないから。でもある人が教えてくれたんだ、君が柊を脅していたとね」

「脅していたなんて。私はただ、先生の恋人の心臓を無理やり奪ったこの人が許せなかっただけよ。この人のせいで、母は死んでしまったんだもの。許せるわけないでしょう! 」


 柊はゆっくりとミルを見た。


「この人が・・・この女が・・・私から全て奪ったのよ! 今度は先生も奪うの? 」

「何言っているんだ。それは、君の思い込みだ」

「どうして? 恋人の心臓を奪われたのに、なんでこの女なの? 」

「零の心臓を奪われたなんて、俺は思っていない。臓器提供は零の望んだことだ、それを受け取ってくれただけじゃないか。どうしてそんな言い方するんだ? 」

「だって…この人がいなければ母は死なずにすんだのよ!」

「それは違う。心臓移植は、、適合しなければ移植はできない。零の心臓が適合したのが、たまたま柊だけだった。それだけじゃないか」


 ミルは信じられない目をしてギュッと唇を噛んだ。


「許せない・・・なんで? 私ばかり奪われるの? ・・・許せない! 」


 キッと柊を睨むミル。

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