彼の愛した女(ひと)は?

「はい。ずっと東條さん夫妻には感謝いっぱいで。でも、東條さんの奥様は、体が弱くて甘える事は出来ませんでした。恩返しに、奥様を元気にしたくて私は医師になろうと決めました。学費も高校生までは出してもらいましたが、大学からは自分で働いて納めてきました」

「はぁ? あのお金持ちの東條さんが、大学の学費を出さないままって事? 」

「はい。奨学金で大学には行きましたので、未だに返済しています」

「おかしな人ね。引き取ってくれたなら、そのくらい出してもらえばいいのに」


 呆れたようにミルはため息をついた。


「東條さんとは家族であって、家族ではないと私は思ってきたのです。だから18歳になったら、もう負担はかけられないと思っていたので。自分で何とかしようと、精一杯でした。本当の家族というのを、私は知らないんです。でも貴女は、本当の家族がいる
じゃないですか。亡くなったお母様の事は、とても悲しい事ですが。それでもお母様との思い出は、大切な宝物だと思います。私は小さすぎて覚えていませんから」


 呆れるような顔をしていたミルだが。

 完全に柊に負けたと確信した。


 静流が柊に惹かれたのは、柊が持っている優しさと、恋人から受け継いだ心臓があるからなのだと思った。

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