彼の愛した女(ひと)は?
「私が聞かされた家族との思い出は1つだけです。父と母が、産まれてくる私の為にずっと名前を考えてくれていた事でした。私が産まれる前に、父は亡くなってしまいましたが。その後ずっと母は私の名前を考えてくれていたそうです。この事は、母が残していた日記に書かれていたそうですが。私が産まれた時は、とっても寒い冬で木々の葉は枯れ落ちていたのですが。大きな大木が、しっかり根をはって強く植えられているのを母が病院で見て。どんなに厳しい寒さにも負けないように、大地に根をはってしっかりと強く生きて欲しいと願って「柊」とつけてくれたようです」
ミルはふと、母が言ったことを思い出した。
(ミル。貴女の名前はね、お父さんとお母さんが見ているだけで、とっても幸せになれる可愛い女の子だから、その子をずっと見ているよって願いを込めてミルってつけたのよ)
病気で顔色が悪い母が、とても穏やかな笑顔で話してくれた事だった。
ミルはじっと、柊を見つめた。
「私と家族の思い出は、名前を付けてくれたエピソードしかありません。でも、その事を聞いてとっても嬉しかったんです。ちゃんと、私の事を想って考えてくれた名前なんだって。そう思うだけで、嬉しくて感謝しかありませんでした。貴女も、子供さんには思いを込めて名前を付けられていると思います。その子と一緒にいられるなんて幸せじゃないですか」
「・・・そうね。・・・あの子は、ゆいいつ奪われなかったものね」
「貴女の家族を大切にして下さい。お子様、待っているんじゃないですか? 今日は
土曜日ですから、世間ではお休みじゃないですか。お母さんと一緒にいられる貴重な時間を、楽しみにしていると思いますよ」
ミルはフッと笑った。