彼の愛した女(ひと)は?
「結婚しようって約束しただろう? 」
「あ・・・そうですが・・・」
「これは俺からの結納金だ。俺の妻になる人に、借金なんて抱えて欲しくない。これからは、自分の為に働いて好きな事にお金を使ってくれればいい。もう、総合病院で働くのは辞めてくれる? 」
「どうしてですか? 」
「だって、不規則な勤務で一緒にいる時間がすれ違うのは嫌だよ。それに、俺は家族を養って行けるくらい力はある。お金の事も、もう心配しなくていいから。柊には、できるだけ家にいて欲しい。働くことを制限するつもりはないよ。町のお医者さんだってあるんだし、夜は一緒にいられるようにしてくれれば構わないからさっ」
静流の優しさに、柊は涙が溢れてきた。
「有難うございます。そんなに私の事を、想ってくれて・・・嬉しいです・・・」
泣き出してしまった柊を、静流はそっと慰めた。
「ねぇ、今日は俺の家でずっと一緒にいてくれる? 」
目にいっぱいの涙をためて、柊は静流を見つめた。
「今日だけでいいですか? 」
そう尋ねた柊に、静流は少しだけ意地悪そうに笑いを浮かべた。
「ずっと一緒にいてもらいたいなぁ。もう、家に帰らないでくれる? 」
「はい、そうしたいです」
意地悪で言ったつもりの静流だが。
柊は真面目に答えてくれた。
そんな柊をギュッと抱きしめる静流。
「愛しているよ。・・・幸せにするから、絶対に」
「私も、貴方の事を幸せにしたいです」
「うん、一緒に幸せになろう」
お互い見つめ合って。
唇が重なった。
外は綺麗な夕日が輝いていた。