彼の愛した女(ひと)は?
白衣を脱いだ柊は、地味な紺色のブラウスに黒いスラックスに黒い靴。
そして茶系のバッグを持っている。
いつもながら俯き加減で歩いてくる柊。
すると、スーッと影が伸びてきて、柊は驚いて顔を上げた。
「やぁ、今日はもう帰り? 」
驚く柊の前には静流が居た。
夕日の中にたっている静流は、まるでモデルのようにカッコよくて。
通り過ぎる女性は振り向いて見ているくらいだった。
「ごめん、ずっと君を待っていたんだ。ここに来たらきっと、また会えるって思っていたから」
爽やかな笑みを向けてくれる静流。
グッと息を呑んで、柊は走り出した。
「ちょっと待って! 」
静流は柊を追いかけた。
全速力で走って公園までやって来た柊。
だが・・・
「うっ・・・」
突然胸を押さえて蹲ってしまう柊。
「待って! 」
追いかけてきた静流がやって来た。
立ち上がって走り去ろうとする柊だが、胸の痛みが治まらずその場に蹲ってしまった。
「どうした? 大丈夫か? 」
追いかけてきた静流が柊を支えた。
真っ青な顔をしている柊を見て、静流はハッとなった。
「ごめんね、もしかして心臓が悪いのか? 」
柊は首を振った。
「顔色が真っ青じゃないか。ちょっと、あそこに座ろう」
静流は柊を支えながら、近くのベンチに座った。
ベンチに座ると、少しずつ柊は呼吸が落ち着いてきた。
「大丈夫か? 常備薬はあるのか? 」
「・・・大丈夫です。・・・びっくりして・・・」
呼吸を整えながら柊が言った。
「驚かせてごめん」
「大丈夫です」
呼吸が落ち着いてくると、柊の顔色も戻ってきた。
「落ち着いたようだね? 」
「はい・・・ごめんなさい、余計な心配をさせてしまって」
「いや、俺の方こそ突然ごめん」
ふと見ると、柊の額には汗がにじんでいた。
「汗が出ているよ」
静流はハンカチを取り出すと、柊の額に滲んでいる汗をそっと拭いた。