彼の愛した女(ひと)は?
 それからというものは、話しがトントン拍子で進んでいった。

 護はすぐにでも柊と結婚してほしいと静流に頼んだ。

 静流は快く引き受けてくれた。


 柊と結婚が決まって、護は静香の療養施設費用はずっと東條コンサルティングで負担すると言ってくれた。


 そして柊は東條から九条へ嫁いでも問題ないと。


 
 静流は結婚式はしないと言い出した。

 病気の母は出席できそうもなく、両家の親が揃わないのは寂しいから写真だけ写して入籍だけ済ませる事にしたのだ。


 護は特に反対しなかった。

 2人で決めたまま進んでほしいと応援してくれた。



 柊は静流から受け取った結納金で、奨学金の残金をすべて支払って借金はなくなった。

 そして約束通り光友総合病院を退職した。


 柊の退職理由で結婚すると聞いた看護師も同僚医師も驚いていた。

 しかも相手は名の通る弁護士でイケメンだと知ると、尚更だった。





 2週間後には静流の家に柊が引っ越してきた。


 そして無事に入籍も済ませて、柊は九条柊となった。



「あらっ。あの優しい東條先生にお茶入れてもらうなんて。とっても幸せだねぇ。あ、もう東條先生じゃなかったね」


 事務員の順子に、柊がお茶を入れてくれた。

「どちらでもいいですよ。呼びやすい方で。同じ苗字が2人いると、ややこしいですから」

「まぁそうだね。でも、仲良くなりたいからさっ、柊ちゃって呼ぶよ」

「はい」


 柊は眼鏡をかけなくなり、髪もボブヘヤーに伸びてますます綺麗になった。

 地味だった服は少しだけ明るい服を着るようになり、最近はワンピースやロングスカートを履いている。


 病院を辞めてから、柊は静流の事務所を手伝っている。

 事務の仕事は初めてで判らない事ばかりだが、順子が優しく指導してくれていた。

 覚えが早い柊はすぐになれてきたようだ。




 ミルはあれから事務所を辞めて、母親の実家がある遠い田舎へ引っ越してしまった。

 静流に会いたいと言っていた子供は、一度も静流とは会わないままになった。


 
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