彼の愛した女(ひと)は?
「ごめんなさい、ハンカチが・・・」

「ハンカチくらい、気にしなくていい。それより歩けるかい? 」

「はい、もう大丈夫です」

「・・・ねぇ、どうして俺の事をそんなに拒絶しているの? 」

「そ、そんな。拒絶するなんて・・・ただ・・・貴方のように素敵な人なら、私みたいな女じゃなくても。・・・もっと良い人が居ると思うので・・・」


 静流はそっと、柊の手に手を重ねた。


 柊の手は見かけよりほっそりしていて、ちょっとガサガサになっている。

 おそらく消毒によく触れるからだろう。


「東條さん。もっと素敵な人って、どんな人の事を言っているの? 」

「えっ・・・。それは・・・容姿も綺麗で、スタイルも良くて・・・もっと綺麗な人です・・・」

「それは誰と比較しての事? 」

「私とです・・・」

「東條さんは、自分の事を綺麗じゃないって思っているのかい? 」

「はい・・・」

「どうして? 」


 どうしてと尋ねられると、柊は答えに迷った。

 だが、いつも周りから地味で暗くて男にモテないと言われている柊。

 
「みんなから言われています。地味で、ブサイクだって」

「誰がそんな事言ったんだ? 病院の人達? 」

「はい。それだけでは、ありませんが・・・」


 静流はフッと小さく笑った。


「俺は、そうは思わないよ」

「え? 」

「東條さんは誰よりも、とっても真面目で一生懸命な人だろう? だからさっ、うっかり信号を見落としてしまう事だってあるんじゃないのか? 」

「そ、それは・・・」

「人を好きになる気持ちに、外見は関係ないって俺は思っているよ」

「だ、だけど。私なんかと一緒だと、恥ずかしいですよ」

「そう思っているのは、きっと東條さんだけだよ」


 重ねている手をギュッと握って、静流は微笑んだ

「今だって、こうして一緒に座っているけど。全然恥ずかしいなんて思わない。恥かしいどころか、嬉しいけど? やっと、東條さんとこうやって話が出来たから」


 柊はそっと胸に手を当てた。

< 6 / 52 >

この作品をシェア

pagetop