クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「はいよ」

愛菓の父親がカウンター席の和生と愛菓に差し出してきたのは、真っ赤な色をした如何にも辛そうな担々麺だった。

「愛菓さんは辛いものもイケルのですか?」

「小学2年生から食べてますから。イケルというより慣れてはいます。でも、味だけは保証しますよ」

「味だけは、ってオイ、失礼なやつだな」

「それはすまなかった」

頭を下げる愛菓は、やはり侍のような姿。

「それでは頂こう。和生殿」

「ええ」

ズルズルと音を立てて麺を啜る愛菓は、この場にいる誰よりも男らしい。

背筋が延びて姿勢がいいから何か高級料理でも食べているかのように見える。

みるみるうちに額や首筋に汗が浮かぶ。

その姿に色気を感じて、周囲の男性が息を飲む。

しかし、隣に座る和生の射るような冷たい視線に、厨房のスタッフもお客も目を反らしてしまった。

「へえ、兄ちゃん、案外、見所ありそうじゃねえか。ほら、伸びるぞ、食え」

「はい」

愛菓と同じく美しい姿勢で麺を啜り始めた和生。

やはり、愛菓と同じように、和生の額や首筋にも汗が浮かび上がる。

「うまい・・・!」

「そうであろう」

愛菓は満足げに、でも、それ以上は言葉を発さずに麺を啜り続けた。
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