クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
寝室で愛菓を待っていた和生は、一向に戻ってこない彼女を心配してバスルームに向かおうとした。

すると、真っ暗なダイニングキッチンに置かれている二人掛け用のテーブル席に腰かけて、じっとスマホの画面を見つめている愛菓を見つけた。

「何を、なさっているのですか・・・?」

その声は冷たく、和生の表情のない顔は珍しく怒っているかのように見える。

「オークフィールドホテルのご意見箱を覗いていました」

シャワーを済ませた愛菓は、和生のダボタボのTシャツと短パンを着て、首と肩に掛けたバスタオルに濡れた髪を広げてくつろいでいた。

その格好の愛菓はいつもよりも幼く見えて無防備だが、表情は相変わらずビジネス仕様だ。

「またこんな時間に仕事に関することを持ち出すなんて、あなたという人は本当に厄介だな」

和生は愛菓に近づくと、肩にかけてあったバスタオルで愛菓の頭を包み、素早くドライヤーを取りに行って戻ってきた。

「和生殿、髪はいつも自然乾燥で・・・」

「問答無用。代わりの効かないパティシエールに風邪は引かせられません」

愛菓の言葉を遮ると、和生は、優しく彼女の髪をドライヤーで乾かし始めた。

サラサラの髪がブローでキラキラに輝いていくのが堪らなく嬉しい。

< 35 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop