クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する

「そこで、オーナーの奥さんの美和子さんと息子の優吾さんと出会って。学校では学べないお菓子作りのノウハウを教えてもらって、私はラッキーだったと思います」

゛優吾゛という言葉に、和生は片眉を上げた。

イケメンショコラティエの佐藤優吾は、現在、35歳。

二人が知り合った当時、愛菓が14歳とすれば、優吾は23歳だ。

「優吾さん、は、昔から凄腕のショコラティエだったのですか？」

優しげな和生の声から甘さが消え、突然、いつもの冷淡な声色に変わり、愛菓は和生を見上げて首をかしげながらもその質問に答えた。

「そうですね。専門学校時代から注目を浴びていて、オーナーのお知り合いの有名なショコラティエのお店で修行をしていました。優吾さんがle sucreに戻って来るまでは、盆休みくらいしか、彼はお店には顔を出しませんでしたね．．．。」

和生は、愛菓をオークフィールドホテルの゛favori crème pâtissière ゛に引き抜こうと考えた際、愛菓の周辺について探りをいれた。

le sucreの弱味につけこんで、まんまと愛菓を手に入れたのだが、和生は知りたくもない事実を知るはめになっていた。

優吾と愛菓が、かつて恋人同士であったという事実を・・・。