クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「お待たせしました」

テーブルに置かれた゛Pouding adulte゛を見て、樫原は口元にうっすらと笑みを浮かべているように見えた。

ほとんど表情が変わらない樫原の僅かな変化に愛菓が気づくようになったのも、彼からのしつこい訪問を受けていれば仕方のないことだった。

「ああ、この味です。本当に癒されます」

実は、樫原は甘いものが大嫌いだったりする。

頼んでいるコーヒーだってもちろんブラックだ。

出会いの過程で、必然的に愛菓もそれを知ってはいる。

「余計に美味しく感じるのは、愛菓さんがこの器も僕の好みに合わせてくれているからかでしょうね」

別に愛菓が樫原を好きだからそうしているわけではない。

ただお菓子に癒しを求めている人には誠意を尽くすのがポリシーなだけだ。

樫原は瑠璃色に近い淡い紺色を好むと知った。

だから器もその色にしているだけ。

愛菓は、

「喜んで頂けて光栄ですが、例の件をお断りするスタンスには変わりありませんので」

と、樫原を牽制するのを忘れなかった。

< 5 / 96 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop