クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
自宅の2LDKのマンションは、キッチンの有能さで選んだ。

何件かのスイーツ大会の懸賞金と、女性誌のインタビュー記事、出したスイーツ本の印税で、愛菓の貯金はそこそこある。

愛菓にとって、自宅は憩いの場であるというだけではなく、新作のスイーツ作りに没頭できる神聖な場所でなくてはならない。

祖父母の家は古い日本家屋で、オーブンとかキッチンとかお洒落なものは一切ない。

だから愛菓は、高校のパティシエコースには特待生制度で入学、コンクールに入賞し続ける条件で、寮費もタダの優待制度を利用した。

お陰で、専門学校も特待生になることができたのは幸いだった。

一人暮らしは余儀なくされたものの、そこは両親からの援助で乗り切った。

今はそこそこ知名度も上がり、和生のお陰で、これ以上ない好条件で仕事をし、私生活も潤っている。

和生のマンションから自宅に戻った愛菓は、昨日から頭に浮かんでいた新作のレシピをノートに書き出しながら、ブツブツと独り言を言っていた。

そこに、スマホのバイブと着信音が鳴り響く。

それは、和生からの着信だった。
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