クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「はい」

「愛菓さん」

「昨日はお世話になりました。ご面倒をお掛けしたことをお詫び申し上げます」

「・・・今は、どちらに?」

「自宅ですが」

「では、そちらに伺います」

愛菓は、肩と耳でスマホを挟んだまま、器用に和生と会話を続ける。

腕にはボウルとハンドミキサー。

「スイーツ作りですか?貴方は会話中でも容赦ないですね」

「和生殿、今はお仕事中では?話なら明日、伺いますが」

これが、つい先程まで゛愛゛らしき言葉を囁き合っていた二人なのか?というほど業務的な会話。

ミキサーの混ぜる材料を見つめる愛菓の瞳は、それを止める絶妙なタイミングに集中している。

「・・・」

「・・・」

「・・・よし!」

「愛菓さん、30分後にご自宅へ伺います。では、後程」

材料が混ぜ終わったタイミングで合いの手をいれた和生の優しさに、愛菓はスマホを手にとると、切れた電話の主にほんの一瞬だけ想いを馳せて微笑んだ。
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