クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
゛ピンポーン゛

オーブンの温度とケーキの焼き上がり具合を確かめていた愛菓は、インターホンの画像を確認し、

「解錠します」

と言って、マンションの集合玄関のゲートを解錠した。

カメラの画像に、和生がエレベーターに乗り込むところが映し出された。

じばしの静寂の後、

゛ピンポーン゛

と、もう一度、玄関のチャイムが鳴る。

「和生殿、昨日ぶりですね」

「全く・・・。きちんと誰が来たかを確認してから開けなさい」

そういいながらも、和生は遠慮なく、愛菓の部屋に入ってきた。

「おや、いい匂いがしますね」

「ええ、カスタードレモンチーズケーキを作っていました。甘さを押さえた大人の味ですよ」

和生がこの部屋を訪れたタイミングで見事な焼き上がり。

「和生殿への私の今の気持ちを表現してみました」

テーマは゛大人の初恋゛。


「お食事はお済みですか?よろしければ一口いかが?」

と、微笑む愛菓が差し出したカスタードレモンチーズケーキは、酸味が程よい大人のスイーツで間違いなかった。

「初恋?」

「ええ、私は自分から誰かを好きになったことはありませんでしたから」

「優吾さん、は?」

「彼は同志です。なんとなく流れ、・・ですかね?」

ケーキを口にしながら、ブツブツと改善点を呟きながらメモをとる愛菓。

こうなったら愛菓はしばらくこちらの世界には帰ってこない。

和生は、ため息をつきながら勝手にシャワーを借りた。

シャワーを浴びて、リビングに戻っても愛菓はまだキッチンで作業をしていた。

和生も持ち込んだ仕事用のノートパソコンを開いて仕事を始める。

「あ、和生殿。お話があるのでは?」

そうやって、愛菓が本題に気づいたのは、和生の訪問から二時間が経過してからだった。




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