クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「愛菓さん、愛菓さんたら!」

阿佐美の声でようやく顔を上げた愛菓は、苺のクレープを丁寧に包み終えたばかりだった。

「何?どうかした?」

「ヨシザキさん、帰られましたよ」

「吉崎?」

「フランスからわざわざやって来た天才パティシエでしょ」

「oui!あれ?どこ行ったのかな?」

キョロキョロと周りを見渡す愛菓に、阿佐美はあきれるように言った。

「だから、帰りましたって!」

「そっか。それより、これ食べてみて。米粉のクレープとカスタード、豆乳ホイップを使ったクレープ」

吉崎のことなど意に介さないといった愛菓の態度に阿佐美は苦笑しながら

「世界大会まであと五日だそうです。それまでに日本人の心を掴んでみせると言ってましたよ」

「すごいねー。でも私も日本人代表として負けるつもりはないから」

そうやってフルーツナイフを掲げる愛菓の瞳は、キリリと威光を放っていた。

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