クールな専務は凄腕パティシエールを陥落する
「愛菓さん」

午後21時10分。

鍵のかかった店内にはまだ灯りがついていた。

ブツブツと何かを呟きながら、懸命にノートに何かを書きこみ、タブレットをスクロールする愛菓。

「愛菓さん。差し入れをお持ちしましたよ」

甘い香りに、いつもは集中の途切れない愛菓が珍しく顔を上げた。

「和生殿」

無表情な中にも愛しさを滲ませた綺麗な顔が愛菓を見つめていた。

「エクレアにチーズケーキ。カスタードプリン・・・。それ、吉崎さんのケーキですね」

「見ただけでわかるなんて、さすが愛菓さんは研究熱心だ」

「ネットで見たことがあるだけです。先程、彼が私のレシピで作った米粉のシュークリームは食べましたが」

見た目も美しいそのスイーツは、有名なパティシエが作ったにふさわしい出来映えでとても繊細だった。

「吉崎さんとルイさんは当ホテルのセミスイートに宿泊されています。そこのキッチンを利用してこのスイーツを作ったそうですよ。゛さっき愛菓の作ったスイーツを全種類買って帰ったから、愛菓も平等に僕のテイストも知っておくべきだ゛と言ってこれを渡されました」

「へえ、敵に塩を送るとは吉崎さんもずいぶん余裕ですね」

と、愛菓は不敵に笑った。

「やはり繊細でとても美しい作り。味もフランス人らしくゴージャスで奥が深い」

エクレアを口にした愛菓は、幸せそうに微笑みながら全てを完食し、またもやブツブツと何かを呟きながら、ノートとタブレットを交互に手に取った。



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