欠けてるあなたが大好きです。
「何する?」
「何ができるの?」
「んー、ゲームとか?」
「さっきも候補にゲーム入ってたし、
諒くんゲームするの割と好き?」
「暇つぶしになるだろ?
あとオレ得意だから。」
そう言ってテレビゲームを準備し始める諒くん。
あんまりゲームしたことないんだよなぁ。
小さいときからゲームとかより
料理をお母さんと作る方が楽しかったし。
別にゲームが嫌いな訳でもないけど、
なんでもできる諒くんと遊べるほどの
実力はないと思う。
楽しめるか不安だな…。
「ほい。」
コントローラーを渡され、画面を見る。
諒くんが設定とかいろいろやってくれて、
すごろくゲームが始まった。
ちょくちょく説明を受けながら
サイコロをふって進んでいく。
「オレ次3出たらやばいじゃん。」
「なにこれ?ドクロマーク?」
「まぁ出ないだろーしいいだろ。」
そう言ってサイコロをふる諒くん。
「「あ。」」
3出ちゃったね…。
すごろくのフィールドから
別のフィールドにとばされる諒くんのキャラ。
そのフィールドは6分の5が戻りマスで
運が良くないと出られないようになっている。
「ぷっ。」
「おい。笑ったろ。」
「わ、笑ってなんか…!」
頑張って口を結んで笑ってないよアピールをする。
諒くんより少し後ろにいたわたしは
順調にドクロマークのマスも避けて追い抜く。
「なんだこれ…。出れねぇ…!」
諒くんは戻りマスに翻弄されて
なかなかもとのすごろくフィールドに戻れない。
その間にわたしはどんどん差をつけ、
諒くんが地獄のようなフィールドから
抜け出した頃にゴールした。
「やったー!」
「あのとき3を出さなければ…。」
負けて興がさめたのかゲームを片付ける諒くん。
夢中でゲームをしていたのか、
時計を見たら6時前を指していた。
「駅まで送る。」
「ありがと。」
玄関でパンプスをはいて出ようとする。
「なぁ。」
諒くんの声が聞こえて振り返る。
既に見慣れてしまいそうな諒くんの無表情の顔。
「咲雪って…。」
「なに?」
首を傾げてみる。
が、諒くんは30秒くらい経っても返事をしない。
「どうしたの?」
「…いや、なんでもねぇ。」
諒くんが笑顔を作る。
でもその笑顔はいつもの自然な笑顔ではなくて。
なんとなく遠足の時に見た、
悲しそうで苦しそうな表情に似てると思った。
…きっと本人は悲しさも苦しさもわかんないだろうけど。
「そっか!じゃあ行こ?」
諒くんに負担をかけたくなくて、
気にしてないふりをして玄関から出る。
何を言いかけたのかはわからなかったけど、
手を繋いで駅まで送ってくれたから
そんなに悪い話じゃないんだと判断して、
おうちに帰った。