君の隣で、色を見たいんだ
ヴェネツィアに留学しているとはいえ、忙しくてゴンドラになど乗ったことなどなかった。異性と乗っているということに、みどりはドキドキしてしまう。

急に「ゴンドラに乗ろう」と言われ、今に至る。

「みどり」

ロヴィーノが、スケッチブックと鉛筆を取り出す。

「景色を見て?」

ロヴィーノに言われ、みどりは赤い顔を景色に向ける。ヴェネツィアの街は、いつ見ても美しい。

「私の家は、火事でなくなってしまったんです」

燃え盛る炎のような夕日を見つめながら、みどりはポツリと呟く。横からは、ロヴィーノがひたすら鉛筆を動かす音が聞こえてくる。

「放火されて、一瞬で思い出の詰まった家はなくなりました。瓦礫の山を見つめて、思ったんです。どれだけ美しいものもいつかは壊れるって……」

みどりの目から、一粒の涙がこぼれる。記憶を振り返れば、家を失い呆然とする父と静かに泣く母、体を震わせる弟の姿が浮かぶ。

「絵や音楽はいつまでも残るものですから……。だから、絵で見る街の風景の方が好きなんです」
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