同じ人を好きになるなんて
「迷っているの。雇われたとはいえいつまでもここにいちゃいけないからちゃんと再就職しなくちゃいけないとか、早くお金貯めて部屋を探さなくちゃとか……だって私はここに一生いるつもりはないのだから」

本当はこんなことを言うつもりなどなかった。でもここにずっといたいとか、いつまでここにいられるのかなんて自分の本心を陸斗に知られたくなかった。

「ここを出ていくつもりなのか?」

陸斗がなかり驚いた様子で私を見た。

「もちろん今すぐじゃないよ。いずれはって話よ……だけどそう言う気持ちでいることはわかってほしいと言うか……」

この先ずっと一緒にいるわけじゃないのだからその気持ちはわかって欲しかった。

だが陸斗から思わぬことを言われる。

「嫌だ」

非常に短いながらも強みのある言い方。

だけど私にはその言葉の意味がわからない。

「何が嫌なのよ」

呆れ交じりに尋ねると陸斗はすごく不機嫌そうに私を見た。

「何か不満でもあるのか?待遇に不満でもあるのか?」

「違うそんなんじゃないの」

「だったらなんで?もしかして……俺が原因?」

そうじゃない……といえばよかったのに私は何もいえなかった。

重い空気が流れる。
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