君がキライなそのワケは
体中の血液が沸騰するような感覚。
初めてコイツに怒鳴りつけた時と同じだ……。

「………言いたい事はそれだけか」
「え?」
「……私は帰る」
「おいっ、待てよ! 何怒ってんだよ」
「離せッ、このくず野郎が!」

てっきり涼介は私の気持ちを知って連れ出してくれたのかと思っていた。

(だけど違ったんだ……)

あくまで兄貴である太郎さんの為に、邪魔者の私を遠ざけただけ。

(兄弟想いってやつか)

分かっている。
太郎さんの好きなタイプは多分、富美みたいな『女の子』だって。

私みたいな男か女か分からないような奴じゃあない。

「莉子」
「もう、いい……ごめん、怒鳴って」
「おい」
「もういいんだ。帰る」

頼むからこれ以上話しかけないで。
泣いてしまいそう。

(よりにもよって嫌いな奴の前で)

もう時は既に遅かった。
気がつけば目元から頬にかけて涙の雫で濡れていた。
そしてその涙がいくら拭っても拭っても止まらない。

「……ううっ、ぐすっ、く、……」

ダメだ止まらない。
せめてもの抵抗で顔を覆ったけど、くぐもった嗚咽は漏れてしまう。

(こんなのかっこ悪い、恥ずかしい……涼介だって困るよね……え)

肩をふわりと包み込まれたのに気が付いた。

「莉子、ごめん」
「……り、りょ、うすけ?」

嗚咽を抑え、ようやく名前を呼ぶとさらにギュッと強く抱き締められる。

「うん。……オレじゃ駄目?」
「え?」
「兄貴よりガキだし、カッコよくもねぇけどさ」

鼻をすする音で顔は見えないけど、多分涼介も少し泣いていたのだと気が付いた。

「いつかオレだって兄貴みたいに大人になるからさ。そしたら……なぁ、莉子」

(何を言って……)

耳元で囁かれる言葉をまるで夢の事のように聞いていた。
コイツのことだ。
揶揄っているんじゃあないか。

(まただ……)

この近視感、なんなんだ。

「思い出してくれなくてもいい、だから………」
「り、涼介……?」

(あ、あ、あ)

………ふと意識が傾き、真っ逆さまに落ちる。
そんな感覚で意識が途絶えた。




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