絶対恋に落ちない。そう思ってたのに…。見習い騎士と素直に慣れない私
プロローグ
私は、ここがどこかもわからないまま。青々しい草原に横たわっていた。
台風で、どんよりと曇っていたはずの空は、私の頭上で眩しいくらいの空模様が広がっている。
そこに、通りかかった1人の男。第一印象は、イケメンなのに、ちょっとだらしなさそうな感じの彼。
私は、何故ここで横たわっているのか。

つい、1週間前まで、理想通りの楽しい人生だった。あの彼と別れた日から、
災難は始まっていたんだ、きっと。


ちょっと、ため息をつきながら駅へと向かう。
人どりが多い駅の改札の前。

1年前の6月の半ば、ジメジメとする湿気の中、一人の青年が小走りに駆け寄ってきたのを思い出した。
バイト先で、出会った彼。正人は、お客さんのファンがつく程の人気だった。
爽やかで、気遣いができて、そんな正人と付き合う事ができて、私は喜びにあふれていた。

「ごめん、まった?」
少し、申し訳なさそうにこちらを伺いながら私の顔色を窺っている。

「ううん、大丈夫。私もさっき来たとこだから」
彼が来てくれた事が嬉しくて、私は待ち時間なんて気にならなかった。

あれから、約1年後の夏。

あの時、待ち合わせをし出会った頃のように、お互いに笑顔はない。
彼は、真剣な面持ちで、少し俯きかげんでいる。

昨日の夜、連絡する回数が減った彼から、
『明日、駅前の改札で待ち合せしよ。話したい事があるから』
とだけ短い文章が来た。

私は、彼が切り出す言葉がなんとなくわかった。
それは、私の言われたくない言葉。
そして、静かに彼は一言。私の予想した通り。
『別れよう。』

今まで積み上げたものが全て崩れ落ちる感じがした。

爽やかで、社交的で、完璧な彼氏と一緒にいる為に、バイトもオシャレも、勉強も彼の理想の彼女に慣れるよう精いっぱい頑張ってきたのに...。
なのに、夏休みに入る直前に彼氏に振られた。

最高の大学生活を送ってたはずだった。振られたショックで注意力が欠けていたのだ。
台風が近づいていて、雨がひどい日だった。彼氏と別れて1週間。
ファミレスで課題をやり、雨がひどくなってきたので、急いで外に出た。
(天気予報と違う!台風が来るの夜中だったんじゃ!)
帰ってる途中で、携帯を忘れた事に気付いた。
(まだ、急いで戻れば、間に合う)

近道を通る為、大通りではなく路地裏に入る。
(急ぐなら、絶対こっちが近いはず!)
そう思って、傘を差しながら左右から吹き付けてくる雨風に吹き飛ばされないように走っていた。

路地裏に入ると、後ろから強風に煽られ、カバンから、鍵のついたネコのマスコットが宙に舞う。
鍵といっても、家の鍵ではない。

(あれは、母親から貰った大切なもの!)
幼い頃からのアルバムなどをしまってる物の開ける鍵だった。
お守り替わりにいつも、持ち歩いていたのだ。

そのまま、慌てて追いかけ路地裏を抜ける通りに出た途端。
道路側に出るはずが、何故か木の根っこにつまずき転んだ。

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