俺の、となりにいろ。


 「アホか。そんな声で聞こえるわけないだろ」


 不意に、そんな言葉と同時に、カートの製図用紙の束がヒョイと持ち上げられる。
 ため息が出そうなその息を飲み込んで、後ろ姿の人物を見つめた。

 長身で肩幅が広く、黒髪がサラッと揺れる。水色のワイシャツ姿で、右脇に製図用紙と一緒に青いファイルも抱えていた。

 「おーい、紺野!製図用紙きたぞっ」

 間違いない。

 顔は見れなくて残念だが、少し低くて深みのある、色気のあるハスキー声は変わっていない。

 私は一気に速くなる心拍数に、思わず自分の胸に手を当てた。

 課長に昇進した、桐谷秀人。

 ほんの一瞬の再会だった。
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