俺の、となりにいろ。
秀人の斜め後ろに立つ私は、長身の彼が今、どんな顔をしているのか見えない。しかし私の腕を握る手は、微かに震えていた。
きっと彼自身、いろいろな気持ちと葛藤して苦しんでいるのかもしれない、と思った。
その答えが「今」なのだ。
「俺が何故、これから忙しくなるという今、大阪、金沢、横浜の支店と本社を行き来していたか、わかりますか?」
と、秀人はずっと手に持っていた書類の束を持ち上げた。
「本当にこれだけの証拠を集めるのは苦労しました。でも宇田支店長にコイツが関わっている以上、俺は何でもやってやりますよ」
──大事な、女なので。
そう言ったと同時に、腕を掴んだ手がフッと離れたと思えば、腰に手を回されグッと秀人に引き寄せられた。
戸惑って彼を見上げると切れ長の瞳と視線が合い、
「俺の、となりにいろ」
と、言われた。
「…っ」
この緊迫する状況の中、グンッと急上昇した自分の心拍数を隠しきれず、砕けそうな腰を秀人の腕に頼った。
ピッタリと密着した私たちの姿に、女の子たちの悲鳴があちこちから聞こえた。
秀人は聞こえているのか、いないのか、無関係とばかりに私の腰を抱いたまま、宇田支店長を見据えていた。