俺の、となりにいろ。

すると、スッと宇田支店長の後ろに熊沢さんの大きな体が現れ、そのガクリと落ちた頼りない肩に手を置いた。
宇田支店長は青白い顔を上げた。ほんの数十分前まで血色の良い肌で背中もしゃんと伸びていたのに、今の目の前の男はまるで別人のように老け込んで見えた。

その窪んだ目が、チラッと私を見た。

ほんの一瞬、目が合っただけで背中がギクリと震える。
同時に、私の腰を抱く手はグッと力が入った。何か言われたわけでもないが、「大丈夫だ」という安心感があった。

周囲の中に仲本桜子の姿がなかった。一緒にいた女子社員たちも、今になって彼女がいなくなったと気がついたらしい。

「みなさん、まだ勤務時間内ですよ。しっかり仕事をしましょう」
と、桐谷専務はパンパンと手を叩いて、周りの社員たちの気持ちを切り替えさせる。
宇田支店長は先に熊沢さんに連れていかれたので、この場はお開きとなった。
< 132 / 161 >

この作品をシェア

pagetop