俺の、となりにいろ。
その桐谷秀人が新入社員として桐谷ハウジングに入社したことは、社内報を手にして驚きを隠せなかったことも覚えている。
彼のビジネスでの活躍は、社内のどこにいても聞こえてきた。
その上、あのルックスである。
次々と申し込まれる、綺麗で可愛い女性たちからのお誘い。
彼は女性たちからの告白を断り続ける理由。
──僕には心に決めた女性がいます。だから諦めてください。
この断り文句も、噂として広がっていた。
備品室に引きこもる私は、この目で桐谷秀人の晴れ姿をみることはなかったが、活躍を聞くだけで私の気持ちは満たされていた。
今、私の手のひらには黄色く色褪せた、桐谷秀人が残していったメモがある。私の宝物だ。
例え一生会うことがなくても、私の手元にこれがあれば心強く生きていける。
役職者として階段を上っていく彼と、彼の未来の幸せを、私は見守ることにしたのだから。