クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
ヴァレーゼ王家の住まいである宮殿は小高い丘の上に建ち、月の光を受け白く輝くことから月光宮と呼ばれている。

月光宮の周囲には立派な屋敷が立ち並ぶ、貴族街が続く。

更に離れた平坦な土地が、一般の民たちが暮らす場だ。

ベルグラーノ伯爵家の屋敷は貴族街の西側に位置する。

リアナの実家トレド男爵家の屋敷は、その更に西の貴族街の端に建っていたが、父が亡くなった後に売りに出し、今では昨年爵位を授けられた新な男爵が家族で暮らしているそうだ。

屋敷を売って得た金銭はそれまで仕えてくれた使用人達で分けた。

リアナの元には殆ど残らなかったが、よくしてくれた屋敷の者がゆっくりと次の仕事を探せると思うと惜しくなかった。



馬車はいつもよりゆっくりと貴族街を進んでいた。

身籠っているリアナの身体を気遣い、リカルドが御者に指示したのかもしれない。

ちらりと隣に視線を送ると、彼は車窓の外に視線を投げていた。

何か見ている訳ではないようだ。

恐らく考え事をしているのだろう。少し眉間にシワを寄せた険しい表情も凛々しくて素敵だと思う。

じっと見つめていると視線に気づいたのか、リカルドがリアナの方に顔を向けた。

「どうした?」

優しい声に幸せな気持ちになる。

「何でもありません」

見惚れていたなんて恥ずかしくて言い出せない。
誤魔化したつもりが、リカルドは心配そうに顔を曇らせた。

「気分が悪かったら遠慮しないで直ぐに言ってくれ」

「はい、分かってます。本当に無理をしているわけではありませんから。私今日の夜会を楽しみにしていますし」

「本当か?」

「はい。あ、そう言えばリカルド様は、今夜の主役の第三王女殿下とは親しいのですよね?」
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