クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
その日は落ち着かないまま過ごし、眠りについた。

リカルドは当然のように戻らない。

(今頃、エルドラ王女殿下と一緒にいるのかな……)

同じベッドで眠っているとしたら? 輿入れ前の王女がそんな真似をするはずないと分かっていても、嫌な想像が次々浮かぶ。

リアナに触れる時は淡々としているリカルドも、愛する王女に対しては情熱的になるのかもしれない。

夫の力強い手が優しく王女の体に伸ばされる光景が過ぎる。

息苦しさを覚えてぎゅっと目を瞑った。それでも辛さも妄想も消えない。


夜会の日、王女の私室でふたりが触れ合っていた光景が蘇る。

美しい、でもリアナにとっては目を覆いたくなる辛い光景。

じわりと涙がこみ上げた。
仕方がないし、耐えなくてはならないと自分に言い聞かせている。それでも悲しいのだ。


リカルドとは、自分の意思などなく、流されるまま結婚した。

そうするしか生きて行く術が無かったから。

だけど彼の優しさに触れている内に、いつのまにか好きになっていた。

家族としてだけでなく、一人の男性として夫を想っている。

(でも……リカルド様は私じゃ駄目なんだわ)

リアナが苦しいように、リカルドも叶わない想いの辛さに耐えているのだろう。

涙は流さなくても、きっと心は傷ついている。

切なそうに目を細めていたリカルドの姿を鮮明に思い出し、胸に痛みが広がった。熱い涙が頬を濡らす。

「……うっ……」

嗚咽を枕に顔を埋めて殺す。自分の恋が叶わないのが辛いのか、リカルドの想いを切なく感じているのか、よく分からない。

ただただ悲しい。

耐えようとても、次々と涙が溢れるのを止められなかった。

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