クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
リカルドから返事は来なかった。

けれど夜遅くリアナがベッドに入ろうとしたとき屋敷が騒がしくなった。

リカルドが帰宅した様子だった。

思いがけない帰宅に、リアナは入りかけていたベッドから出てガウンを羽織る。

その直後、慌てたような足音を立てながら、リカルドが寝室にやって来た。

「リアナ!」

リカルドは通常任務のときの黒い軍服姿で、珍しく髪が乱れていた。

「リカルド様、お帰りなさいませ。今日は戻られないと聞いていましたが」

「手紙を読んだ、どういうことだ?」

リカルドは大きな歩幅でリアナに近付いて来た。彼の表情は普段よりも険しい。

リアナの行動が不快なのだと気付くと、身が縮むようだった。

「あの……手紙に書いた通りです。ディエス公爵家ではなくトリアの領地に行こうと思います。向こうにもお医者様はいますし、幼馴染の家もあり安心ですから」

「幼馴染とはアリソン家のことだろう?」

リカルドが声を大きくする。

思わずビクリとすると、リカルドは気を取り直すように息を吐いた。

「……大きな声を出して悪かった」

彼らしい冷静な声だった。

「いえ……でも私がリカルド様の命令に従わないことを怒っているのですか?」

リアナの言葉に、リカルドは一瞬言葉に詰まる。

「……俺はリアナに命令したつもりはない。どうしてもトリアに行きたいのならそれでもいい。だがなぜ急に行き先を変えたいと言い出したんだ?」
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