クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
家を出た妻
ベルグラーノ伯爵家の領地、トリア。

領地の中央は平坦な土地で農業が盛んだが、端の山地では金が取れ、鉱山の町として栄えている。

リアナが移り住んだ領主館は領地中央にある。王都とは違い牧歌的な雰囲気が広がっている土地で、小高い丘に建つ館からは一面に広がる小麦畑を見渡せる。


リアナは部屋の窓から良く育った麦の穂が風に揺れる様子を、何をするでもなく眺めていた。

太陽の光が高くなった頃、ダナがワゴンを押しながら部屋に入って来る。

「リアナ様、お食事の時間です」

「え? もうそんな時間?」

「そうですけど、どうなさったんですか? こちらに移り一月も経つのにずっとぼんやりばかりで」

「うん……ここは平和でいいなと思って」

「王都も平和だったじゃないですか」

ダナは首を傾げながら、テーブルに昼食用のパンとスープとサラダに卵を並べる。

どれも出来たてで、美味しそうな匂いが部屋を満たした。

領主館の料理長が、妊娠しているリアナ用に栄養を考えて作ってくれているものだ。

領主館の人々は殆ど面識のなかったリアナに対してとても優しい。

それはリアナがリカルドの妻だからだろうが、ときどき申し訳ない気持ちに陥った。

(私は名前だけの妻なのにね)

使用人達が尊敬しているリカルドが本当に愛しているのは、別の女性なのだから。
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