クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
「実は王都から来た商人に変な話を聞いたの」

ミラの嫁いだアリソン家は、主に食品を扱う小さな商家だ。トリアで採れた小麦や加工品を王都や地方都市に卸している為、王都の商人との交流もある。

「どんな話なの?」

「王都から人が居なくなっているって言われているんですって。引っ越しした訳でなくある日突然消えてしまうそうよ。ちょっと怖いよね」

ミラは気味悪そうに、眉をひそめる。その様子を眺めていたリアナの脳裏に以前王都で聞いた噂が過った。

「……そう言えば、ベルグラーノ伯爵家の屋敷に居た頃、人攫いが起きているって話を聞いたわ。騎士団が調べていたようだけど」

ミラが興味深そうに身の乗り出してくる。

「人攫い? それで犯人は捕まったの?」

「私が居た頃はまだ捕まっていなかったわ」

「そうなんだ、王都は栄えていて人が大勢いるだけに物騒ね。リアナはこっちに来て正解だったよ。妊娠中に何か有ったら大変だもの」

「うん……そうだね」

頷きながらも安心は出来なかった。むしろ不安を覚えている。

(リカルド様、大丈夫かしら)

今頃トリアまで噂が届いたという事は、状況は悪化していると考えていい。

その分騎士団の負担も増えているはず。

一体誰が王都から人を攫っているのか見当もつかないが、騎士団長である夫はいずれ犯人を対峙することになるだろう。

(リカルド様に何事もないといいけれど……)

リアナの気持ちは不安定で直ぐ落ち込んだり悲しんだりしてしまうけれど、リカルドの健やかな幸せを願う気持ちだけはぶれていない。

どうか何事もなく過ごしていて欲しい。

< 43 / 117 >

この作品をシェア

pagetop