クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
考え込んでいると、執務室の扉を叩く音が響いた。

「入れ」

リカルドの声の直後に扉が開く。

きびきびとした態度で、一人の騎士が入室して来た。

リカルドと似たプラチナブロンドに琥珀色の瞳の、一見線の細い青年で名前はシャルノ。

容姿とは裏腹に戦闘量は高く騎士団第一隊の隊長を務めている。

彼はリカルドの士官学校時代からの友人でもあった。

「リカルド、また月光宮から呼び出しが来たぞ」

「……そうか」

リカルドは漏れそうになる溜息を、飲み込んだ。

「ここの所連日だ。これじゃあ寝る暇もないな」

シャルノはリカルドの内心うんざりした気持ちを代弁するように、愚痴を吐く。

「この状況もあと少しだ」

「そうだけど、トリアに一度も行けてないだろ? 奥さん寂しがってないのか?」

「……ああ。彼女は気にしていない」

トリアの領主館からは定期的にリアナの様子が伝えられるが、楽しそうに過ごしているようだった。

幼馴染のミラ・アリソンとが頻繁に訪れるらしく、リカルドがいないからと言って寂しそうにしている気配はない。

リアナに悲しい想いをさせずに済んでいるのは良いことだ。しかし夫として大して必要とされていない現実が、憂鬱にさせた。

「でもお前は会いたいんだろ? 何とか時間を作ろうとしているもんな。ことごとく邪魔されてるけど。任務とはいえ、もう少しこっちの状況も考えて欲しいよな」

リカルドも同意したいところではあるが、それよりも聞くべきことが有った。

「シャルノ、襲撃で行方不明になった兵士達だがその後、進展はないのか?」

「ああ、一人として見つからないままだ。やはり襲撃時に連れ去られたのだろうな。そしてその敵の正体が分からない」

「そうか……」

リカルドは沈鬱な表情で相槌を打つ。

襲撃時、最強と名高い騎士団長が倒れたことで、兵士達は混乱の最中に有った。

王太子を守り逃げることで精いっぱいで敵を捕らえる余裕はなかった。

不意をつかれたとはいえ、屈強な騎士団の惨状は信じがたいものだった。

ユベルを殺し、自国の騎士を攫った敵を思うと怒りが湧いて来る。相手の姿があやふやなせいで、今でも衝動は擽っている。

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