クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
特に今夜は過度に緊張していた。

手元に意識を集中させていると、エルドラ王女の華やいだ声が響いた。

「リカルド、明日はトリアの観光に連れて行ってくれるのでしょう?」

視線を上げればエルドラ王女がリカルドに熱い視線を送っているところだった。

堂々とした振る舞いを見るとエルドラ王女の方が妻のように思えてくる。憂鬱さにひやりと身体が冷たくなった。

リカルドの反応を知るのが怖くて、リアナは聞こえないふりをして目を伏せる。

(リカルド様がエルドラ王女に優しくするところなんて見たくない)

王女に対する愛情を目の当たりにしたら、普通で居られるか分からない。

(嫌だ……私の前でそんなことをしないで)

自尊心はエルドラ王女の存在を知った時に砕け散った。
それでも夫を慕う気持ちは消えていないのだから。

心と同様に手先が震えてるのか、フォークが白磁の皿に思い切りぶつかってしまった。

しまったと思ったときには遅かった。甲高い音を立てたフォークはリアナの手を離れ床に落ちて行く。

青ざめるリアナにエルドラ王女とリカルドの視線が集うのを感じて眩暈がしそうになった。

(どうしよう……)

王族の前でこんな阻喪をしてしまうなんて。

食事もまともに出来ない女と思われたかもしれない。

リカルドにも恥をかかせてしまった。


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