クールな騎士団長はママと赤ちゃんを一途に溺愛する
(どうしよう……)

館まではまだ距離がある。

リアナひとりなら逃げきれるだろうが、エルドラ王女を連れたままでは厳しい。

(先に行って味方の騎士を呼んで来る?……いいえ、そんなこと出来ない)

間に合わなければ王女はただで済まなくなる。

「とにかく少しでも館に近付きましょう」

エルドラ王女の手を引き走り出す。先ほどとは違い引きずるような形になり、リアナにも負担がかかって来る。

王女にはもう自分だけで進む力が残っていないのだ。

それでも他に方法がなく進んでいると、ぜいぜいと呼吸を乱した声が聞こえて来た。

「ね、ねえ。あなた戦えないの?」

「え?」

「敵国から悪魔と呼ばれたトレド騎士団長の娘なのでしょう? あなたも強いのではないの?」

振り返るとエルドラ王女の期待に満ちた瞳と視線が重なった。

「も、申し訳ありません。私は殆ど訓練を受けてなくあの人達に打ち勝つ力はありません」

「そんな……どういうことよ」

落胆の声を吐かれ居たたまれなさが襲って来る。

しかし背後に騎士の姿が映り、それどころではなくなった。

< 94 / 117 >

この作品をシェア

pagetop